恋愛セオリー10のお題より

「6.伝えたい思い




「ムキャー!! 今日はまた格別にいいニオイがします!」

部屋に入るなりのだめが叫んだ。

「呪文料理デスね! とっても豪華デスよ!」

そりゃそうだ。
今日は一応バレンタインデーだから、それなりのディナーを、腕をふるって用意した。
極上のワインに、テーブルには花だって飾った。
それなのに…

「先輩、今日はなんかおめでたいコトでもあったんデスか?」

コイツは街の雰囲気とかカレンダーとか見て気付かないのか!?
クリスマスにあんだけデカいツリーを用意するようなお祭り好きなヤツが、このイベントに気付かない訳ないだろう!?
去年は忙しくて適当に済ませたら文句言ったクセに、なんてこと言いやがるんだ。

「……お前の分はない」
「う、ウソデスよウソ! 今日は恋人たちの日デスからね!」
「焦って取り繕ってもムダだ!」
「先輩、拗ねない拗ねない…ね。ただいま、のじゅうでんしてクダサイ」
「あっ! コラ! 離れろ!」
「はぅー。先輩からもおいしいニオイがします…」
「…いい加減離れろ変態!」
「あと10秒…」
「鍋が焦げる!」
「それは困りマス!」

ほら、こうやって。なんだかんだ言ってペースに巻き込まれる。

「…呪文料理のほかに、甘いにおいもしますよ? このニオイは…チョコレートデスね!?」
「…お前の嗅覚には感心するよ。デザートはチョコフォンデュだ」
「ムキャー! センパイ愛してマス!」
「お前が愛してるのはオレじゃなくて食い物だろ…」
「違いますよ! 両方デス!」
「…あ、そ。わかったから早く着替えてこい。料理冷めるぞ」
「ハーイ!」


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「はぅー。もう食べられません…」
「また太るぞ」
「…大丈夫デスよ。今日は特別デスし。あ、センパイ! それより何がいいデスか!?」
「何って?」
「リクエストデス。のだめからピアノ演奏のプレゼント」
「いつもと同じじゃねえか」
「いつもは練習デス。今日はセンパイのために弾くんデス」

まあ、オレにとってこいつのピアノ以上のプレゼントはないわけだが。

「うまいことやったな」
「な…なんのコトデスか?」
「いや、なんでもない。」

もともと女から男に贈り物を贈るのは、日本だけの風習だし。
日本にいてもゴロ太のチョコで済ませるようなヤツだから期待もしていないし。

「じゃあ…」
「もじゃもじゃ?」
「却下。それ以外で。お前が好きで、オレも好きな曲」
「じゃ、コレしかないデスね!」

そう言って弾き始めた曲は……


“清掃”


しかもまた進化している。

音が輝いて、部屋中に広がる。
音がオレを包む。

ピアニストとしての一歩を踏み出したのだめの音。
だけど今はオレだけのために、この音がある。

そして進化を続けるのだめのピアノに、負けてはいられないと思う。
“ゴールデン・ペア”とやらになるために。

1曲弾き終えて、満足げにしているのだめの隣に座り、忘れられない旋律を弾く。

「あ! のだめラプソディー!」

のだめも弾き始める。

理論では追求できないのだめのピアノ。
あくまで自由に…とんで、はねて…でも、こいつの呼吸は肌でわかる。
のだめもオレにそれができるとわかっていて、さらに自由になる。
追いかけられて、追いかけて。
重なり合ってぶつかり合って。
まるでオレたちの日々の生活のように。そんなピアノが響く。

弾き終えて、どちらともなく微笑みあって、見つめあう。

「センパイもなかなかやりますね」
「当たり前だ。オレ様を誰だと思ってる」
「のだめだって、負けませんよ?」
「わかってるよ」

だから弾いたんだ。

オレだって負けてられない。
オレたちは、世界最強の“ゴールデン・ペア”になるんだから。




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