千秋真一お誕生日SSその2


恋愛セオリー10のお題より

「3.胸がいっぱいで」




「あ! センパイ帰って来てましたね! この企画、驚きました?」
「…うん。ていうかいつの間にあんなに準備した?」
「あー…まだここでしたか。ちょっと早かったデスね。さ! 次はキッチンにサプライズデスよ!」
「質問に答えてないし。ていうか自分からサプライズって教えてどうする…」

宝箱をそっとおいて、のだめの言うようにキッチンに向かうと、そこは張り紙だらけだった。
仕方ないので端からひとつひとつ読んでいく。

「つまりはオレに鍋の準備をしろってことだな」
「えへへ……材料はウチからいっぱい送ってきてたんデスけど…のだめも時間なくて…」
「わかったよ……そのかわりお前も手伝え」
「あ! じゃあのだめはおにぎり担当で!」
「お前、鍋は得意なんじゃないのか?」
「今日は鍋はセンパイにおまかせします。のだめはおにぎりを……」
「ま、どっちでもいいけど」

のだめは「着替えておにぎり作ってきます!」といそいそと自分の部屋に戻っていった。


鍋の準備ができるころ、のだめは大量のおにぎりを抱えて部屋にやって来た。
「実はムッシューからワインの差し入れもあったんデスよ!」
そう言って冷蔵庫からよく冷えたワインをとりだす。

「センパイ、たんじょびオメデトウゴザイマス」

チン、と小さくグラスをあわせ、ふたりだけの鍋ディナーが始まった。

おにぎりをほお張ったときにまた異変に気付く。
……何か……食べ物ではないものが入っている。

「紙?!」

まだ仕込んであるのか。

=========================
シューマン*トロイメライ
=========================

「……何?コレ…」
「何書いてありました?」

テーブルから乗りだしてオレの手元をのぞき込んでくる。

「出てきた紙に書いてある曲を、夕食後にのだめが弾きマス!」

フォーチュンクッキーのおにぎり版ってところか…発想はいいけど…微妙に湿った紙が…

「紙が湿って米についてんだけど…」
「まぁそのへんは気にせずに」
「気にするから。つーかまたもじゃもじゃとかまじってないだろうな」
「それはセンパイの運次第デス!」

結局出てきたのはトロイメライと、ラヴェルのソナチネ、ベートーヴェンの月光。
のだめのおにぎりは確かにうまいが3つが限界だ。しかし5つめに手を出していたのだめが叫ぶ。

「ムキャ! のだめも紙入り間違って食べちゃいました!」

===========================
ベトベン*悲愴
===========================

「じゃ、これはのだめが引いたので、センパイが弾いてクダサイ」
「今日はオレの誕生日だからおまえがオレのために弾くんだろ? どこまで成長してるか聴いてやる!」

結局、引いた紙だけでない曲も思いつくままに…オレだけのための、のだめのリサイタルが続いた。
“悲惨”から徐々に進化していく悲愴に、出会ったころから比べての、自分の変化に苦笑いする。
でもきっと、この音を初めて聴いたときから、この音から離れられなくなる予感はあったのかもしれない。
たった25年の人生だけど、かけがえのない、何よりも大きな出会い。
こいつがいなければきっと今の自分はなかっただろう。
変態で、奇声を出すしオタクだし、部屋は汚いし出会ったころには風呂も入らないような女だったけれど…

「で、実はまだプレゼントがあるんデスけど…」

満足するまで弾いたのだめが、小さくつぶやいた。

「え? まだあるのか?」
「…ちょっと準備…してきます。15分後に迎えに来ますから」

そう言ってバスルームに消える。

バスルーム?
まさかそれは…あの…身体じゅうにリボンを巻き付けて「プレゼントはあ・た・しデス」なんてベタな展開じゃないだろうな。
まああれはある種男の夢でもあるけど…実際やられたらちょっとどうなんだ…
でも嬉しいよな…うん…

15分が長くも短くも感じて、いてもたってもいられなくなったころ、のだめが出てきた。

…よかった。普通の格好をしている。
いや、よかったのか?

「というわけでセンパイ。今日はお背中流します♪」
「背中だけ?」
「……ムッツリが顔を出しはじめましたね」
「だって……今日は誕生日だし」
「じゃあ……一緒に、入りまセン、か?」

その言葉を最後まで聞かないうちに、のだめを抱え上げる。
バスルームに入るとそこは、バラの香りで満たされていた。
バスタブには薄いピンクに染まった湯に、真っ赤やらピンクやらのハートが浮いている。

「かわいいと思いません? このハート、入浴剤に入ってるんですケド…」
「…掃除大変そう」
「ムキャー!興ざめすること言わないでクダサイ!」
「ウソだよ。たまには…いいだろ」

額に、頬に、髪にキスを落としながらのだめの服を脱がせていく。

「はぅ……センパイ、器用デス」
「プレゼントっていうのは、箱を開ける作業も楽しいんだよ」
「……さすがムッツリデスね」
「うるせ」

のだめを後ろから抱えるようにして、バスタブにゆっくりと身体を沈めると、色とりどりのハートが身体にまとわりついてきた。
のだめは掌でひらひらと湯の中を漂うハートをすくってはこぼし、を繰り返している。

「んふ。かわいい。センパイ、意外にこういうの似合いますよ?」
「……やっぱコレ、邪魔じゃないか?」
「えー? せっかくターニャがプレゼントしてくれたのに」
「……またあいつに報告する気か?」
「のろけるのは程々にしてくれって先にクギ刺されてますカラ」

そんな他愛もない会話をしながらも、実は気が気ではなかった。
薄いピンク色をした湯から出る、のだめのなめらかな肩のラインや、白い項に張り付いた鮮やかなハート。
うっすら上気し始めた肌に触れたくて仕方ないのに、その薄い紙が邪魔をしている気がしてならない。
それでも耐えきれずに、項にそっと唇を這わすと、のだめがぴくりと反応して、背筋が伸びた。

普段は変態のクセに、こういうときだけはいつまでも変わらず素直なしぐさを見せるから、
それがまたかわいくて愛しくて……抱きしめた。

「今日は、ありがとう。25年の人生の中で、多分一番幸せな誕生日だった」





恋愛セオリー10のお題 「10.幸せの法則」に続く。


index





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送